イフティン診療所レポート U

20066

米田 真理





イフティンに通い始めてまる
3ヶ月が経った。最初は週3回、しかも午前中だけの勤務でどこまで出来るのだろうかと不安だった。その不安とは『言葉』や『異国で同じ職業をする』というものだったが、国は違っても『看護師は看護師』だということをイフティンのスタッフや患者さんから学ばせてもらった。


3ヶ月も過ぎ4ヶ月目に入って気が付けば、今はほとんど一人で注射をしている状態である。
(良く言えば信頼されている?けど、悪く言えばほったらかされている…?)
でも未だにカルテに記載されている名前のスペルが分からない(殴り書きなので)。
しかも似た名前が多いうえに、私自身の発音に問題があって『なんとなくこんな名前かな…』と思って呼ぶと、必ず23人集まる。
イブラヒムイブラハムモハメッドムハンマドフセインハッサン…数え上げたらきりが無い。
スペルが曖昧で、何でこの綴りがそう読めるんだ?というのが多々ある。
(もちろん、丁寧に書いてあれば私にだって読めるんです!)


私が主にしている仕事は『注射だけ』なのだが、この『注射だけ』がくせもので『注射だけ』しに来る患者さんが2030人。新規の患者さんが1020人。午前中だけでも多い日は50人近くに注射をすることになる。
((『注射だけ』というのは、要するに治療の一貫として35日継続して注射だけに通う))『注射だけ』の患者さんが8時半を過ぎた頃から徐々に集まり始め、9時くらいにはところせましと座っている。

基本的にカルテは患者さんが持ってくるのだが、特にカルテ専用の箱が置いてあるわけではない。患者さんが部屋の中まで持ってきてくれる場合もあれば、私が部屋から出てくるのを待っていましたといわんばかりに次々と人が押しかけ、カルテを手渡す。
(この時はちょっとしたスター気分を味わえる)

そのカルテを今度は別のノートに転記するという作業がある(これが面倒!)。名前・性別・年齢・病名・施行する注射の欄に使用量を記入するのだが、ここで、名前の綴りが分からずに悩む。更に何の注射かで悩む。例えばマラリアに使う注射でQuinine(キニーネ)という薬がある。しかしカルテに書かれているのはQQの後はミミズが這っている)だけ。今では他の注射もだいたい解読出来るようになったが、やっぱり患者名は分からない。

転記が終わって患者さんを呼び入れる際、先述のように
23人集まる。
その中から一人だけ本物を見極めて注射をするのだが、患者さんを間違えるなんて事はもってのほか日本同様大変なことである。
でも、分からない時はすぐスタッフを捕まえて聞きに行く。これが一番!


朝、行くとすでに掃除のおばちゃんがいて掃除をしている。「おはよう。」と声を掛けると(もちろんスワヒリ語で)「ヘイ、シスタ−、おはよう!」とにこやかに返事を返してくれる。国や肌の色が違ってもここでは知り合いは全員姉妹(兄弟)なのである。

そのおばちゃんはいつも青と白の荒い縦縞の服を着ている。他の人とは違うので『へぇ〜、めずらしいなぁ…』と思っていたら何の事は無い。いわゆる「囚人」なのである。

それに気が付いたのは男性が同じく細かい縦縞の囚人服を着て掃除をしていたからである。
日本じゃ服役中の人が外に出るなんてあり得ない事だな…と思っていたら、今度は注射をしに来たのである。
しかもワッパ(手錠)したまんま…。まぁ、ワッパをしていても患者には変わりない。何をしでかしたのかは知る由も無いが、みんな極悪非道人には見えないのである。
しかも、付き添いのポリスと和やか?に談笑していたり…。私から見れば『普通の人』なのである。そして『普通の人』同様、注射も嫌いである。


習慣の違いとして戸惑ったのは10時の『チャイ』
スタッフと一緒に注射をしていても、気が付くといつの間にか居なくなっている。分からない事があって探しに行くと、カップを持ってプラプラ。…『チャイ』である。

仕事中でも何をしていても、それを中断してチャイを飲む。そういう習慣。

はじめの頃『患者さんを待たせてなぜ休憩できるんだ?もっとまじめに仕事をしろよ!』
なんて憤慨していたのだが、それは日本人的感覚。患者さんはチャイで待たされていても何も文句は言わないのだ。

(注射で待たされている時はものすごい勢いで怒鳴り込んでくるのに!)

スタッフから「チャイしてきなよ。」と声を掛けてもらうのはとっても嬉しい。
でも、カルテは溜まっているし、中にはしんどそうな患者さんもいる。やっぱり放っておけない。「ありがとう、後でね。」と返事をして仕事を続ける。
今では『そういう習慣』と諦め?、私も一緒にチャイを飲む。
もちろん、それは患者さんがいない時、若しくは仕事が終わってひと段落ついてからだ。


こうして、ここの習慣や環境に慣れるに従って、患者さんとのコミュニケーションも楽しくなってくる。

子どもに注射をする時に日本で言う「よしよし」みたいなあやし言葉がある。
ここではbasi(バスィ)と言うのだが最初は「ブス、ブス」と聞こえたので、ナニ言ってんだ?などと思いながら聞いていると、たいていの親がそう言って子どもをあやしている。

最近では私も注射をする時には「バスィ、バスィ」と言いながら注射する。そうすると、微笑んでくれるお母さんが多い。帰り際には「ア サンテ(ありがとう)。」と言ってくれる。


モスリムの女の人はたいてい全身布に覆われていて、出ているのは『目』だけの状態。
そんな彼女達は男性の前では素肌どころか顔さえ見せない。

ある時、やはり『目だけ』の彼女が注射に来たとき、その目の美しさについ、
「あなた、すごく目が綺麗ねぇ。ソマリの人?インドの人?」聞いてしまったのだ。
すると彼女は嫌なそぶりも見せず、少し照れくさそうに顔のマスクというか布をとってくれたのだ。
(ちなみにその時部屋にいたのは女性ばかりだった)
正直、驚いた。

まさか見ず知らずの外国人に、そうそう顔なんて見せてくれるものではないと思い込んでいたので、顔を見せてくれた時はなんとお礼を言ってよいか戸惑ってしまった。
そんな彼女はやはり綺麗だった。


イフティンはその日その日でいろんな事が起こる。ホントは3ヶ月で終了予定が4ヶ月に延びたのは、おもしろくて辞められなかったのである。

セクレタリーのお兄さんが「今日はカラム(ペン)が無いから仕事が出来ない。」と言って仕事をしなかったり、(じゃあ何の為に今日は来たんだよ!って感じです)日本人がめずらしいのでやたら話しかけてくるおじさんがいたり、本当にいろんな人に出会う事が出来た。

こんな貴重な体験をさせてもらえたのは、イフティンのスタッフをはじめ、ミコノの方々のおかげだと大変感謝している。

本当にありがとうございます。

イフティンのスタッフと